生徒の“伴走者”でありたい|八代清流高等学校 豊田拓也先生

みなさんは“学校の先生”にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

今回取材させていただいた豊田先生は、学校や教員という枠組みを越えて外にも目を向けていらっしゃることが印象的でした。

教員として、地域の一員として、様々な目線でお話いただきボリューミーな記事となっておりますが、ぜひ最後までお読みいただけたら嬉しいです…!

豊田先生について

八代とのご縁は、八代清流高等学校(以下、清流高校)に赴任してからのこと。
ご出身は、熊本県球磨郡あさぎり町。人吉高校から九州大学へと進学され、22歳のときから現在まで高校の教員をされています。

清流高校への勤務は今年で8年目。
全学年の担任に加え、一昨年は高大接続改革プロジェクトのリーダー、昨年は進路指導主事、そして今年は研究主任を務められています。研究は、再来年に予定されている「学習指導要領」の改変に伴う、高校の評価の在り方について。清流高校は全国で3校のうちの1校、その先行事例を作っているそうです。
年齢を重ねるごとに数学以外の仕事にに忙殺していた中、今年は数学の研究にエネルギーを使えることを楽しまれている様子でした。

  

コロナ禍の中での生徒とのコミュニケーション

取材のため清流高校へお邪魔し、まずは豊田先生の授業を見学させていただきました!
高校の授業なんてもう4年ほど前のこと…懐かしい思いでした。
まずは授業の中で発見して気になったものをご紹介。

  

①板書の写真を掲載したブログ
https://kuktoyoda-t.hatenablog.com/
授業中、生徒がノートを取るのにいっぱいいっぱいになって考える余裕がないのがもったいないと感じ、いつでも見返せるようにと板書の写真を掲載したブログを公開されているそうです。
コロナの影響による休校期間には、このブログに教科書の解説を掲載。休校中の自主学習の手助けになると同時に、欠席や不登校の生徒の支援にも繋がるシステムではないでしょうか。

②手作りのアナログクリッカー
写真を見ていただけたら分かる通り、豊田先生の授業では、生徒の机の上に色が塗られたコップが置かれています。コップの色によって生徒が自分の進捗度を示し、赤や黄色のコップを出しておくと、先生がヘルプに来るシステムです。
どこかでこのアイデアを見つけ、休校期間により生徒の学力差が大きくなっている今、そのケアをするために導入されたそう。
大人数の中で声に出して先生を呼びづらい(共感できる方も多いのでは)という状況で、生徒とのコミュニケーションをサポートするツールです。

教員という仕事への姿勢、生徒の多様性との向き合い方

今でも「学校の先生にすごくなりたかった」と自信を持って言えないと話す豊田先生。
親御さんの「地元に戻ってくるなら医者か教員」という言葉を受け、数学が得意だったこともあり教員を選んだそうです。
「それでも教員になった以上は責任もあるし、教員として恥ずかしくないようには働きたい。」
そんな先生に、教員という存在について掘り下げてお伺いしました。

  

ーー熱望して教員になる方も多いイメージですが、当然ながら教員の方々も多様な背景や思いをお持ちですよね。

確かに教員を熱望して真面目に頑張る人や、この業界には2世3世も多い。
優秀な生徒さんや学級委員長や生徒会をするような生徒さんが、学力の高い学校を出て、教員になる。それはすごくありがたいことだと思うんですが、自分が思うのは、そういう人たちって、学校の中ですごくマイノリティなんですよね。本当に多様な生徒たちがいるということにぶつかった時に、自分の知らない世界がいっぱいあって、そこで躓いて苦しむ教員は多いと思います。
だから、教員こそ外の世界を見てほしい、見るようにしたい。

このコロナ禍でも、FacebookやZoomをはじめとするツールを使って、色んな人と繋がれる機会は多かったです。
情報っていうのは結局、こっちから発信すればするほど得られるっていうのはやっぱり思いますね。
そう考えるなら、学校ももっと地域に向けて発信すべきだと思うんですよね。公式TwitterとかFacebookページとかを作ったり、ライブ配信をしたり。もっと情報発信をすれば、学校に興味を持ってもらえるっていうことがあると思うので、それは学校の課題のひとつかなと。

  

《豊田先生がご参加されているコミュニティ》

◉オンラインの数学学習会
「コロナ禍で何もできていないので、みんなで数学を勉強するフラットな会をやりましょうか」というお話をきっかけに、県内外の先生と行われている学習会。
3月から月に1回、最大50人ほどが参加。

◉アクティブラーニング型授業研究会熊本(通称:ALくまもと)
年に4回のオープンでフラットな学習会。6〜7年ほど続いているそうです!
豊田先生はこの運営メンバー。
例えば、ファシリテーショングラフィック、ポートフォリオといったものを取り上げたり、ルーブリックの評価について専門家呼んで研修をしたり、模擬授業をしたり。
教員でもそうでなくても、どなたでも参加できるそうです。
「ぜひ遊びに来てください!」とのことでした♪

  

自分が学ぶ姿が生徒が学ぶ姿に、地域との関わり方

ーー今でも八代在住ではないと聞き、驚いています!八代への印象があれば教えてください。

八代にはあまり知らない、知ると「へぇ〜!」って思うような魅力があると思います。
例えば、私の里の上村に相良藩の麓城があるんですが、それが八代にもあって、自分のルーツに繋がったのはおもしろいなと思いました。
お寺さんもすごく色々あるし、龍峯山を登ったら景色も素敵だし、歩きながら調べてみると、意外と地元の人も知らなさそうな魅力的なスポットが色々ありますね。

ーー八代にずっといたわけでもなく、色んな知識や繋がりをお持ちなのは、どうしてでしょうか?

8年って自分の母校よりも長くいるわけで、だから自ずと愛着は湧きますよね。卒業生もたくさんいますし、知り合いも増えますし。
地元出身なら自然と地域との関わりに熱心なるかっていうと、そうとは限らなくて。
どの地域の高校にいる時も、“地域に就職させたい”っていう感覚はあるんですが、すぐじゃなくていいと思うんですよね。色んな社会、世界を見て、ゆくゆくは地域のために。
そのためには、小さい頃や学生時代にどれだけ自分の地元のことを知って、自分の地元に対しての思いを膨らませるかってすごく大切なこと。
だからチャンスがあればできるだけ学校の外に。特に地域の人たちと関わるような機会を作りたい。学校の閉鎖性っていうのはひとつ、大きな課題だと思うんですよね。

例えば、島根の隠岐の島では、島内留学生というのがいて、つぶれそうな学校が倍率3倍4倍の学校になったり。高校野球で話題になった大船渡高校には大船渡学というのがあって、東大合格者も出たり。
学校自体が元気なところはやっぱり、地域と一緒に探求活動をするっていうことがすごく盛んなんです。
熊本は学校・先生と地域との関わりってすごく気薄かな…。(地域の規模感にもよりますが)それはすごくもったいないことで。

それに、地域によって文化も人柄も言葉も違う。そういう生徒の背景にあることを理解することも、生徒や保護者との信頼関係を作っていく上で大事なことだとは思います。
そうやってビジネスライクにやっている部分もありますが、やっぱり自分自身が繋がることで色々知ったり学んだりできることはすごく楽しい。

自分が色んなことを学んでいる姿が、まさに生徒たちが学んでいく姿に繋がる。
“背中で見せる”じゃないですけど、それこそ八代まほろば会議も、まず自分が参加してみて、これいいなって思ったら、じゃあ生徒たちにも行っておいでっていう感じで、そういうふうなしていきたいなと思います。

   

知っていることからしか選ばな

ーー「地域と関わる」ことについて、具体的に生徒に経験させたいことはありますか?

先生や保護者以外の大人と色々話す機会をたくさん作ってあげたいっていうのが、私の思いです。

自分の知らない文化や考え方の人と出会うことは、すごく世界を広げてくれる。
高校の中では、進路選択が大命題としてありますが、知っていることからしか選ばないんですよね。特に3年生を担当する中で、狭い視野の中で考え選択していることが多いなと感じました。
でも、世の中本当に広くて、それこそまほろばの活動で紹介されるような、素敵な人たちがいっぱいいるんだけど、存在も知らない。それはすごくもったいないことで、色んなことを知っている中で自分の人生の行き道を選択してほしい

もうひとつは、自分の生まれ育った故郷に対しての愛着を、仮に地元を離れたとしても持っておいてほしい。そのためには、“させられる”のではなくて、自分で「あれってどうなってるんだろう」って疑問を持って、生徒たちが主体的に参加できることが大事。

地域の活動によっては、高校生が参加するのが当たり前みたいな体で話を持ってこられたりもするんです。
最初は「よかったら高校生も一緒にやりませんか?」だったのが、何年か経つと「高校生もやってくれるんでしょ?」みたいに変わったんですよね。相手側の担当者が変わって、最初の人の思いが繋がっていないとそうなり得る
生徒も僕らも、あくまで相手は人なので。コミュニケーションはやっぱり大切にしてほしいなとは思います。

本当は、僕らが説明するよりも、思いがある人たちが直接、気軽に伝えられるインフラを整備したい…。
可能な限り情報は流して、あとは生徒の選択っていうスタンスにできたら…もっと学校をオープンでフラットにしてほしいなというのはずっと思っています。

   

「地域の大人と関わることで自分の世界を広げてほしい。」
そんな思いを持つ豊田先生の原体験は、“アマチュア無線”で見知らぬ人、海外の人たちと話したことなんだそう。
幼い頃の体験が大人になった自分の価値観と強く結びついていることが、意識してみるとたくさんあるのかもしれないなと、お話を聞きながら思っておりました。

  

地域とともに生徒の夢を叶える学校

ーー校内の旗の「地域の夢を地域で叶える」という言葉が気になったのですが、それはどういう経緯で設定されたんでしょうか?

氷川高校と八代南高校が合併して今の学校を開設するとき、「うちの学校は県下でどういう存在であるのか」を練ったものだと思います。やっぱり最終的には、地域に貢献できるような人材育成をできる学校に。

ただ、具体的な取り組みはまだまだ可能性がたくさんあると考えています。
例えば、うちは医療系の希望者が多くて、それならもっと「八代の医療の実情ってどうなのか」を深堀りしてみるとか、そういうところに「地域の夢を地域で叶える」っていうのがあるような。
これを学校のアイデンティティとして持っておくならば、地域のことをもっと知ることは必要だと思っています。

ーー最後に、数学の先生として、生徒に近く関わる大人として、教員とはどういう存在でしょうか?豊田先生の思う教員像を教えてください。

“伴走者”かなと思います。生徒が自分で走っていけるように伴走できる人。
教員になりたての頃は、与えることが仕事だと勘違いしていました。
でもいずれ生徒は離れていく。生徒が自走していくことを手助けできるように、伴走者のような存在でいたいなと思います。

   

生徒の“伴走者”でありたいと話す豊田先生。
まさしく「自分が学ぶ姿が生徒が学ぶ姿になる」と仰った通りで、先生ご自身が生徒とともに歩まれる姿勢が随所で伝わってくる取材でした。

  

清流高校について

八代清流高等学校 - 熊本県立八代清流高等学校

   

※この記事はご本人へのインタビューをもとに作成しております。

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